第九話「空耳……」
小学校にあがる以前、一人で家にいるときに、よく名前を呼ばれました。
男の人の低い声が、耳元でわたしを呼ぶのです。息づかいを感じるほどにはっきりとして、リアルでした。

そのたび外へ飛び出して、
「パパー! 呼んだ?」
と叫んだり、洗濯物を干している母に、
「いま誰か呼ばなかった?」
と尋ねたりしたもんです。

けれど親たちは、空耳だろうと軽くあしらいにかかります。子供だったわたしは、
「ああ、あれを空耳というのだな」
と、なんの疑問ももたずに納得しておりました。

大人になった今、改めて考えてみると、
「そんなにしょっちゅう呼ばれるなんて、ただの空耳にしては不自然なことだ」
と、奇妙な感慨にひたってしまいます。
2004年08月10日 沖
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